漢塾Otoko Jyuku

5月のプレ旗揚げ戦を経て、ついにジャパンキックボクシング協会(JKA)が本格的なスタートを切る。
この船出に際し、キック界のレジェンド・武田幸三氏がプロデューサーに就任した。
格闘技戦国時代とも言える今、武田氏はどんな決意とビジョンで出陣するのか――。

——ついにJKAが旗揚げの日を迎えました。プロモーションが乱立する今、JKAはどのような方向性を打ち出していくのでしょうか。
「団体として魅力的なカードを組んでいくことはもちろんですが、自分の中で一番大きなテーマとして考えているのは、選手たちが『職業=キックボクサー』と胸を張って言えるようなリングにしていくことです」
——と言いますと?

「プロフェッショナルとは何か?ということを真剣に考えている人間しか生き残らないということです。格闘技界全体に言えることかもしれませんが、これだけ闘う場があると、極端な話、誰でもプロを名乗れてしまえるのかもしれません。でも他の仕事で生計を立てながら、趣味で格闘技をやっているような選手だったら、真のプロとは呼べません。当然、お客様もそんなアルバイト感覚の選手を求めていないでしょう。職業と言うからには、それで食っていけなければいけない。そして、体一つで自分の夢を実現していくような生き方をしなければ、人に何かを伝えることはできないと思います」

——たしかに世の中に対して何かを提供できなければ、プロという名の自己満足で終わってしまう可能性もありますね。
「そうです。お客様は何かを得るために、お金を払って来てくださるわけです。それは感動かもしれないし、非日常的な興奮かもしれないし、生きる勇気かもしれない。選手の闘いを自分自身の人生に重ね合わせて、少しでもエネルギーにしたいと思っているのかもしれない。そういう思いに応えられるのか。少なくとも、応えようという気持ちを持っているのか。それが一番大事なんじゃないかと思うんですよ」
——現役時代の武田さんは、まさにそうでしたね。ムエタイの王座獲得やK-1での活躍という実績ももちろん評価されていたと思いますが、それ以上にプロとしての生き様に人々が魅了されました。

「キックボクサーとしての技術は、今の選手たちのほうが全然上だと思います。自分は派手な技もなかったですし、負けた試合もたくさんありました。でも、いつも『自分の体はお客様のもの』と思ってリングに上がっていました。それを皆様に評価していただいたのではないでしょうか」

——毎試合“やるか、やられるか”という緊張感が伝わってきましたからね。
「つねにKOを狙っていました。そのかわり、負ける時もKOで派手に倒される(笑)。ある時から片目が見えなくなりましたし、当時は体もボロボロでした。引退して、だいぶ回復してきましたが」
——恐怖心はなかったんですか。

「試合直前まで、いつも怖かったですよ。でも一度リングに上がってしまったら、もう自分の体ではない。怖いなんて言ってる場合じゃない。むしろ、お客様の期待に応えられないほうが怖かったです。皆様のおかげで自分はプロとして存在することができているわけですし、輝かしい舞台に立つこともできるわけですから」

——プロ意識とは、生きることそのものに通じるんですね。
「俺は何者なのか? なぜそこにいるのか? どうすれば人を幸せにできるのか? そういう問いかけを、つねに自分自身にしていましたね。どんな職業であっても、食っていくには覚悟がいると思います。目の前の相手に勝つことも重要ですけど、最終的には“お客様との勝負”ですから。勝負にもこだわり、そして魅せる。命もかかります。まさに極限の世界ですよ。でもリングとはそういう場所です。覚悟がなかったら上がってはいけない場所です。お客様を満足させることができなかったら、お金をもらう資格はないという世界だと思っています。そのような世界で人として成長してほしい。自分は引退した後、役者の道に進ませていただきましたけど、その世界もまったく同じでした。やっぱり生き残っていく人は、みんな覚悟や哲学を持っています。自分は体験によってそれを学んだので、後輩たちにも伝えていきたいと思っているんです」
——とくに個の力で何かを成し遂げていく世界は厳しいものだと思います。

「はい。ただ、選手たちに『人を幸せにするために、自分は不幸になれ』と言っているわけじゃないんですよ。『人を幸せにした先に、自分の幸せがある』と言いたいんです。プロとしてお客様に素晴らしいものを提供できれば、その選手自身にも明るい未来が待っている。JKAはそういうリングにしていきたいと思っています。厳しいことを言っているように聞こえるかもしれませんが、『選手ファースト』を突き詰めていくと、結局そうなるんですよ」

——なるほど、そうですね。
「自分はキック界に育てていただき、貴重な体験をたくさんさせていただきました。それで食っていくことができるようにもなりましたし、第二の人生にもつながるチャンスを得ることもできました。だから、これからの選手にも同じように、むしろそれ以上に幸せになってほしい。そのために、命をかけるような闘いを見せてほしいんです。闘いの本質は、そこにあると思いますから」
——志があるからこそ、そういう闘いができるということですね。

「はい。志事です。そして夢をつかむためには、“我”を捨てることが重要だと思います。お客様を裏切らない選手しかうちには残れない。選手たちの決意を促す意味でも、あえてそう言っておきたいです。そのかわり協会としても、自分自身も、がんばった選手が報われるように全力で応援したいですし、内部事情も含め嘘偽りのないクリーンな組織にしていきたいと思います」

——協会としての近未来の展望はありますか。
「まずは国内・海外を問わずプロとして魅力的な選手を育て、この協会をメジャーにしていくことです。お客様に愛される選手にはどんどんチャンスを与えていきたいと思います。また、うちはジュニア大会も定期的に開催しているので、その中でも世界のトップを狙える選手を育成し、プロのリングにデビューさせていきたいですね。我々の考えに賛同してくださるジムの新規加盟も大歓迎ですし、他団体の選手やプロモーターの皆様に協力していただく機会も多くなると思います。他の格闘技も含め、多くのプロモーターが競い合う荒波の中に打って出ることになるので、自分自身も真剣勝負の覚悟で臨みます。そして、やるからには団体乱立のキック界を統一するという壮大な目標を持ち、その一端を担う協会にしていきたいです」
——統一ですか。それは楽しみです。

「今の我々の力では、野球やサッカーをライバルと呼ぶことはできません。でも、高い志を持って突き進んでいけば、必ず道は開けると信じています。そのためにも選手たちにはがんばってほしいですし、お客様にも信じて会場に足を運んでいただきたいです」

PAGE TOP